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フィクション ノンフィクション

クリスマスケーキ

従来のマニュアル本を電子化するという単調な仕事をしていた頃があった。
ただタイピングする。
患者さん用のバンドエイドに切り込みを入れる。コピーをする、シュレッダーをかける。そんな仕事を、大病院の看護部でしていた頃があった。


もともとは病棟の片付けや、ベッドメイキング、部屋の消毒と患者さんの身の回りのお世話など、力仕事に寄った仕事をしていた。ただ体調を崩してしまって、その業務が困難になり、看護部へと配属になった。
どんなに簡単な作業でも師長の方々からは「凄いねえ!」と。「若いからパソコン打つのも早いわねえ!」と、病院のなかで働いているのに、私自身が何だか患者さんのようになってしまっていた。
だって、こんな簡単な…誰でも出来る事だけど、誰にも時間がないからと頼まれたもの。
仕事と言っていいのか…と、当時とても悩んだ。
褒められはするけれど、師長さんたちは内心どう思ってらっしゃるのか。快く思われてないのではないかという意識がとても強かった。とても優しくしてくださったぶん、何だかとても怖かった。こうして文章におこすと、なんで?と思ったりもするが怖かったものは怖かった。


12月
師長さんの上の立場にあたる婦長さんが、「院内でクリスマスケーキの特別販売があるのよ、そのためにケーキ屋さんが試食を持ってきてくれているから、さあ食べて食べて」と優しい笑顔で明るく接してくださった。その時の私はガリガリに痩せていたから心配もされたんだろうと思うととても…こんなふうな優しさを頂いて、私はなんて返したら…こんな私でも…と。そもそも頂いていいものか分からなかった。勧めていただいたものだけを少しだけ食べた。
「美味しいわね」と微笑んでくださったので、とても救われた。
と同時に、こうして支えてくださる人たちは私の数倍数百倍、毎日必死なのを感じていたし、凄い仕事をしているのもわかっていたから、こうして穏やかに過ごさせてもらうことが後ろめたくも感じた。こうしてずるくいることが、周りの人たちの努力を何だと思っているのだと。ちなみに忘年会では私の所属が「看護部」であった為、出席者リストの一番上に私の名前が載っていたので烏滸がましくて図々しくて、物凄く恥ずかしかった。


しばらくして、また病棟勤務に(徐々に戻っていった)
婦長さんが顔を出してくださったり、階段から落ちた時は放射線科でレントゲン撮ってもらいなさいねと促してくださったり、もう私にそこまでする価値…って半分泣いてしまうくらい私は優しくされていた。