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1991-2017

仕事以外をさせられる僕の話

今回の融資の相手は気立ての良さそうな老夫婦であるから、そこまで気を回さなくとも無事に終わるだろう。お茶菓子をごちそうになって、ハハハと談笑し、寧ろ癒される時間になるかもしれない。と新入社員の頃の僕なら思っていただろう。そして今の僕でも、ちょっとはそう思っていた。



十三時より早めに目的の八百屋に着く。
商店街のわりに人は誰もおらず、シャッター街一歩手前という感じだろうか。そんな場所で不穏な空気を象徴する黒スーツの男が複数人おり、拳銃まで持っていた。
なぜ持っているのが分かったかというと黒のスーツが見えた瞬間に一発横腹に喰らったからだ。
僕は血を流しながらずるずると八百屋の中へ運ばれる。奥へ奥へと連れ込まれるうちに見上げた男の顔に見覚えがあった。
前の前の前に僕が担当した男だった。その時の腹いせに危ない奴らを呼んで僕に反撃してきたということだろうか?

お茶菓子で何たらと思い浮かべていた僕はこの場の流れに体を任せるしかなかった。平常心なのだ。職業病か、どんな時でも何も変わらない。淡々と現状を呑み込み、理解する。
僕ではどうすることもできない。

でも何故ただの銀行員である僕がこんなことになってしまったのか。「お前の澄ました顔が気に入らねえ、肝がヤケに据わってやがって気味が悪いんだよ。」ということらしい。なるほど「興醒めです」となるまでには時間が掛かりそうだ。

アタッシュケースが視界に入り、その中身は拷問器具であり、よかった注射のシリンジはない。昔に観た映画『セブン』のように全身注射針だらけにされてしまうのかと…映画のワンシーンが脳裏を過った。しかしペンチが目に飛び込んできた。僕は足の巻き爪を自力で何とかした時のことを思いだした。あれはマジで痛かった。
「お兄さん、どこが好きかな?」と質問されたので、こいつは変態狂人であることだけは理解した。



そんな状況を終わらせてくれたのは、この事態に気付かず、八百屋に用事があって入ってきた青年のようだった。
ところが、黒のスーツで喧しく騒いでいた男達は彼を見るなり萎縮し、ペコペコ頭を下げてスタコラ逃げて行った。
青年が僕のほうに近付いてくる。
「……。手を出さないでねって、念を押したのに。お仕置きが足りないんだね。」青年が言った。

「さあ、お待たせして申し訳ございませんでした。助けに来る前に、やるべきことがあったのを思いだしまして。いやいや、これも僕の予知圏内のことだったのですが…痛いですか?ごめんなさい。」
「ああ…でも君が来なかったらもっと大変なことになっていたから。どうも有難う。救急車を呼んでもらえると助かるよ…」
「どんな状況でも挨拶が出来る人は素晴らしいですね。今の状況でのあなたにそんな余裕があるなんて。素晴らしい。
怪我のことなら心配要りません、ほら。」
ほら、と言われ青年の視界の先にある自分の脇腹を見ると銃口は塞がっており、血溜まりは空中へ浮かび蒸発するように消えていった。流石の僕もこれには驚いたが間髪いれずに、青年はこんなことを言うのだ。

「あなたは無敵ですね。やはりあなたじゃないと駄目だ。僕と一緒に戦ってくれませんか。」