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フィクション ノンフィクション

死期の恋

死後の恋という名前のオブジェがあった。
作者はこの作品が完成してすぐ亡くなったらしい。


このオブジェは薄いガラス製の箱で、小部屋ぐらいの大きさ。
中には水気を含んだかのように若々しく輝く植物たちがあった。


それは吹き抜けの館内の深層部に、ただ一つだけ展示されていた。

「暗い」のではなく、「黒い」場所にあった。

吹き抜け20階建てほどの高さから覗いても、そのガラス製の箱は発光していた。


私の隣にいた友人が、「いってくるよ」と言って
高さ20階建てはあろうかという場所から飛び降りた。

彼はガラスにぶち当たった途端、あっというまに骨になり
彼の服だけが箱の中に入っていった。

ガラスには彼の頭くらいの大きさの僅かなヒビが入っただけだった。

―『死後の恋』夢野久作